父母に感謝し、祖国を敬う心が日本人の誇りを育む

人としてこの世に生を受けた瞬間から、父母の恩はすでに始まっている。佛教に伝わる『父母恩重経』には、十種の恩として父母が子に注ぐ無償の愛が説かれている。その一つひとつを思い返せば、父母がいかに己の身を削り、心を砕いて子を育ててきたかがよくわかる。しかし、現代の人々はこの当たり前の恩に気づかずに過ごすことが多い。
父母の恩は山よりも高く、海よりも深い。この世で最も尊いものは、己の命を惜しまずに子に与え尽くすその愛情である。父母は子が病めば夜を徹して看病し、飢えれば己の食を削り、子のためならば苦しみも厭わず尽くす。しかし、その恩深さに気づくのは、父母が亡き後であることが多い。だからこそ、生きているうちにその恩に報いようとする心が、人としての道であり、日本人としての誇りである。
父母の恩に報いるという心が芽生えたとき、人は自然と祖先への感謝に至る。父母がいて、祖父母がいて、そのまた先祖がいて、連綿と命が繋がれて今日の自分がある。己の存在は決して己一人のものではない。数知れぬ命の連なりと、その恩に支えられているのである。
そして、祖先が営々と守り抜いてきたこの国土と文化もまた、父母の恩と同じく大切にすべきものである。先人たちが汗と血で守り抜いた日本という国を誇りに思い、次の世代に正しく伝えていくことこそが、今を生きる者に課せられた責務である。
父母への感謝が深まれば、それは祖国への感謝に繋がる。父母が築いてきた家庭を尊ぶ心が、祖先が築き上げた国家を敬う心へと広がるのである。家庭を大切にできぬ者が、国を語ることはできない。己の命の根を正しく見つめる者だけが、本当の意味で祖国を愛することができる。
宮司は思う。今こそ、日本人は『父母恩重経』に立ち返り、その教えを胸に刻むべき時である。己の命の原点を知り、父母に報い、祖国を敬う。この当たり前の道理こそが、失われつつある日本人の誇りを再び蘇らせる鍵となる。