「むすぶ」の言霊と惟神の道

宮司は「むすぶ」という言霊を心から愛している。大和言葉における「産霊(むすぶ)」は、天地の働きを表し、人と人とを結ぶ根源的な力を意味する。この結びの力は目に見えずとも確かに存在し、出会い、縁、そして命の誕生にまで関わっている。
宮司は「御産霊(おむすび)」を特に大切に思う。おむすびは米粒が一つひとつ結ばれ、命を養う糧となる象徴である。その一方で「鬼斬り」という呼び方には恐ろしさを感じる。むすぶ力は鬼を斬るものではなく、人を和で包み、温もりと調和をもたらす力だからである。
男女の結びもまた、むすぶの大いなる働きである。男と女が結ばれ、合体し、そこから新しい命が芽生える。息子(むすこ)が生まれ、娘(むすめ)が生まれる。多くの精子の中から、最も強靭で逞しい一つが卵子と出会い、命が始まる。その神秘を思うと、人がこの世に生まれることがいかに尊いかを実感する。人の存在そのものが結びの奇跡である。
結びは家庭においては愛情の絆を生み、社会においては人と人を結び合わせる調和の原理となる。和を尊ぶ心があるからこそ、力ある者と弱き者、富む者と貧しき者が共に暮らすことができる。和魂が発動しなければ、結びは断たれ、分断が広がる。「和を以て貴しとなす」という教えは、まさに結びの真髄を示している。
そして、この結びの精神こそ「惟神(かんながら)の道」と呼ばれる。惟神の道とは、自然の摂理に従い、神々の御心に順じて生きる道である。人が人として正しくあり、天地自然の秩序と調和を大切にする生き方である。むすぶ心をもって和を広げることは、惟神の道を歩むことに他ならない。
この精神が社会に広がれば、民族同士の争いも、国と国との対立も、宗教戦争も和らぎ、世界の争いは減っていくはずだ。命の神秘に感謝し、人と人との縁を尊び、和を基盤に生きることが、道徳心を養う真の道である。むすぶ心を抱いて歩むことが、神々の思し召しにかなう惟神の道であり、人類が未来へ進むべき道なのである。
