二千日回峰早朝修行930日目

930日目を迎えての思索
宮司は昨日、早朝修行930日目を達成した。目標として掲げた千日回峰行までは残り70日である。午前2時半に起床し、午前4時に出発。真っ暗な山道をヘッドランプの灯りを頼りに歩き、午前6時に山頂へと至る。まだ山は眠りの中にあり、静寂に包まれている。やがて東の空が薄明に染まり、山並みが淡い光を帯び始める。その瞬間、自然の営みと自らの呼吸が一体となり、生命の存在そのものが神々に肯定されているように感じられる。
修行の本質は、特別な技法や華やかな成果にあるのではなく、愚直に歩みを重ねることにある。日々同じ道を歩く行為は、一見単調に映るかもしれない。しかし、同じ道に見えても、夜空の星は変わり、山の風は異なり、心の状態もまた日ごとに違う。その小さな変化を感じ取りながら一歩を進めることは、己の内面を鍛える行であり、同時に自然と調和して生きる学びでもある。愚直さこそが、精神を支える礎である。
夜の闇から朝日の光へと移ろう時間は、人間の心に深い示唆を与える。暗闇は恐れを呼び起こすが、必ず朝は訪れる。苦難の中にあっても希望を見失わない心の姿勢は、自然の循環そのものから教えられる。人間社会も同じで、困難や不安は避けられない。しかしそれを受け入れ、耐え抜くことで必ず光明に出会える。この体験は、人に対して誠実であり、また自己に対して厳格であるという道徳心を育む。
長き修行の日々は、単に歩数を積み重ねるものではない。道中で聞く風の音、木々のざわめき、鳥の声は、神々からの言葉のように胸に響く。それらは「生きてよい」「進み続けよ」と静かに告げている。人は孤独に見えても、自然の懐に抱かれており、見えない力に支えられている。その感覚を心に刻むことで、日常の生活においても他者を思いやり、社会に尽くす志が育まれる。
千日回峰の頂点まで残り70日。歩む道はまだ続くが、日々の積み重ねが確かに未来へとつながっている。この修行は宮司一人の営みであると同時に、多くの人々への道標ともなる。愚直さ、自然への畏敬、そして道徳心。これらを磨き続けることが、次の世代へと受け渡す大切な遺産となる。今日の一歩は、明日の日本を支える心を養う歩みである。
