まほろばを願い、和に生きる

和をもって貴しと為す。これは日本の精神の根本に息づく言霊であり、宮司にとって何よりも大切な教えである。混迷と分断の時代にあってこそ、この言葉が持つ本当の力を思い起こさねばならないと、日々強く感じている。
人は誰しも、神から分け与えられた尊い命、「みたみわれ」としてこの世に生を受けた存在である。その命が互いに争うのではなく、調和し、手を取り合い、共に栄える社会こそ、神々が望まれる人の世の姿である。和とは、ただ喧嘩を避けることではない。己を抑え、他を尊び、調和を生む勇気と知恵の結晶である。
現代は、個の時代と言われる。自由や多様性の名の下に、分断と対立が日常となり、心の平安を失った人々が増えている。互いに顔を背け、責任を押しつけ、共に生きるという感覚を失いつつある今、和の精神を見失えば、この国の未来は根底から揺らぐことになるだろう。
宮司は思う。あすの世界が、まほろばであってほしいと。
まほろばとは、豊かで、調和に満ち、美しい国のかたちである。物や金で測れない、心の豊かさが満ちた場所。自然と人と神がひとつの環の中で結ばれている姿。その理想が絵空事だと言う者もいる。だが、宮司は信じている。まほろばは遠き夢ではなく、心の中から築き上げていく現実の道であると。
祈りとは願いであると同時に、覚悟でもある。和の言霊を継ぎ、次代へと渡すこと。それが宮司に与えられた使命である。神々に仕え、祖先を敬い、今を生きる人々の魂に火を灯す役目が、神職にはある。日々の祈りの中で、宮司は幾度となく繰り返している。どうかこの国が、まほろばたる国として甦りますように。人々が再び「和」の心を思い出し、手を取り合えますように。
神々のまなざしのもと、宮司は今日も祈りを続ける。和をもって貴しと為す。この言霊を、日本の未来へとつなぐために。