「しつけ」という日本の宝を子に伝えるために。

親や祖父母が、子や孫に伝えるべき最も大切なものは何だろうか。日本の神話であり、国への誇りを語る話であり、日本昔話の教訓であり、そして何より「しつけ」である。

しつけとは「身を美しくする」こと。すなわち人としての基本を整える営みである。その中でも、「挨拶」「返事」「後始末」という三要素は特に重要である。

朝の「おはようございます」から始まり、人と会えば「こんにちは」「今晩は」「おやすみなさい」と声を交わす。人に名を呼ばれたら、はっきりと「ハイ」と返事をする。脱いだ靴は揃え、立った椅子は戻し、食器は流しに運ぶ。どれも当たり前のことであるが、今やその「当たり前」が失われつつある。

「しつけの三原則」として教えているのは、次の三つだ。
一、朝、必ず親に挨拶をする子に育てること
二、親に呼ばれたら、はっきりと「ハイ」と返事をする子にすること
三、履き物は揃え、椅子は戻す子にすること

実は、これらのしつけを教えるには、まず母親自身がその手本とならなければならない。たとえば夫に呼ばれた時、「ハイ」と明るく返事をする。その「ハイ」の一言には、自分の我を捨て、意地やプライドを超える力がある。

かつて登校拒否の中学生を持つ母親から相談を受けた。そのとき伝えた解決策はただ一つ。翌日から、ご主人に向かって明るく「ハイ」と返事をしてほしいと。それを実行したところ、その子は11日目には登校を再開した。たった一言が、家庭の空気を変え、子供の心を動かすのである。

しかし、「ハイ」が本当に言える母親は、百人中わずか数人しかいないのが現実だ。この一語の重みが理解されていない。夫が家族を養うために、外でどれほど頭を下げ、言いたくないことを飲み込んでいるか。そこへの思いやりがあってこそ、賢明な母親となる。

また、「嘘をつかない」「約束を守る」「やると決めたらやる」「やめると誓ったらやめる」など、日常の中にこそ人格形成の要はある。電車では騒がない、公共の場で化粧や食事をしない、弱い者をいじめない、神社仏閣では手を清める。このような小さな行為が、人の品格を形づくっていく。

日本の子どもは、礼儀正しいという声もあれば、過保護で甘やかされているという批判もある。海外では、公共の場で子供が騒げば厳しく注意される。マリのように、地域全体で子供をしつける文化もある。日本のような核家族では難しい面もあるが、地域の絆があればしつけはもっと自然に根づくはずである。

そして、どの国においても、子供への愛情は共通である。ただし、その愛を形にするためには、しつけの芯が必要である。甘やかしではなく、育てる責任。叱る勇気、導く覚悟。

しつけとは、礼儀作法を超えた「人間をつくる仕事」である。今こそ、大人たちがその手本を示し、当たり前のことを当たり前に行うことが求められている。

子供の将来は、親の姿にかかっている。未来を担う世代へ、誇れる日本の心を託すためにも、「しつけ」という日本の宝を、丁寧に、まっすぐに伝えていきたい。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

佐藤素心(一彦)。宮司。昭和16年山口県生まれ。元大阪府警勤務。1979年(昭和54年)の三菱銀行人質事件では機動隊員として活躍。事件解決に尽力した。1990年(平成2年)の西成の暴動では自身が土下座をして騒ぎを治めた。その他、数多くの事件に関わり活躍した人物。警察を退職後は宮司となり奈良県吉野町の吉水神社(世界遺産)に奉仕。吉野町の発展に寄与。故・安倍晋三元総理をはじめ、多くの政治家との交流を持つ。現在は長野県下伊那郡阿南町に安倍晋三元総理をお祀りした安倍神像神社を建立し、宮司を務めている。

目次