二十年前に語った誇りの心

宮司は二十年前、吉水神社に集ったバスガイドの皆さんに語りかけた。あの研修の日、夏の蝉の声に包まれながら、笑いを交えつつも、ガイドという職業の本質について真剣に話をしたことを今も鮮明に覚えている。
吉水神社は世界遺産に登録され、義経や弁慶、静御前が座した由緒ある場であり、後醍醐天皇の皇居として南朝の歴史を背負った場所である。さらに、豊臣秀吉が五千の家臣と花見を楽しんだ壮大な舞台でもある。ガイドの皆さんがここを案内するとき、単に歴史を説明するのではなく、その背後に流れる日本の精神や先人の思いを伝えてほしいと願った。
その折、宮司は「プロのガイドとはお客様に感動を与える存在である」と伝えた。寺に参れば寺の作法を、神社に参れば神社の祈り方を示すこと。それは単なる案内ではなく、日本人の礼節を示し、文化を継承する営みである。だからこそ、一期一会の出会いを大切にし、相手の立場に立った応対を忘れてはならない。
心構えとして説いたのが「日常五心」である。
「ありがとう」という感謝の心。
「すみません」という反省の心。
「おかげさま」という謙虚な心。
「私がします」という奉仕の心。
「はい!」という素直な心。
この五つの心を身につけたとき、ガイドはお客様に安心と感動を与えることができる。これはガイドに限らず、日本人としての日々の生き方を支える基盤でもある。
さらに宮司は「愛」についても語った。愛は辛抱であり、感謝であり、与えることであり、信じることであり、そして無償の行為である。そして最後には愛が必ず勝つ。ガイドという職業もまた、この「愛の実践の場」にほかならない。目先の利益のためだけではなく、人を思いやり、文化を伝え、喜びと感動を与えることこそ本分である。
あの日から二十年が過ぎ、社会は大きく変化した。観光の在り方も、国際交流の姿も様変わりした。しかし、宮司が語った心構えは少しも古びていない。むしろ今こそ、人と人との出会いを大切にし、真心を込めて日本文化を伝える姿勢が求められている。
苦しいとき、悲しいときは吉野の山を訪れてほしい。ここには先人の祈りと日本の魂が生き続けている。その魂に触れるとき、人は勇気を取り戻し、愛国の心を新たにする。二十年前に語った言葉が、今を生きる人々の胸にも届き、日本を支える力となることを信じている。