大峯の行に学ぶ、人としての根源

宮司は、日々の修行を通じて「人と人、心と心が通い合うときにこそ、最大の幸せを感じる」という真理に気づいた。そこに必要なのは、感謝の心、反省の心、そして相手を思いやる敬意の心である。この三つは、単なる道徳の教訓ではなく、人間が生きる上で根源的に大切な柱だと確信している。
この考えの参考にさせてもらったのは、塩沼亮潤住職の歩まれた「大峯千日回峰行」という壮絶な修行である。千日間、毎日48kmの険しい山道を歩き続けるこの行は、途中で辞めることが許されず、命を賭して挑む修行である。行者は深夜に起床し、滝に打たれ、握り飯と水だけを携えて山を登り、16時間以上をかけて往復する。その生活を四か月間続け、これを千日重ねるのである。
さらに、千日行を満行した者にだけ課される究極の行がある。それが「四無行」である。九日間にわたり飲まず、食べず、眠らず、横にもならず、経を唱え続ける。普通なら三日も耐えられないとされるこの修行をやり遂げた塩沼住職は、極限の死線をさまよいながらも「人間とは何か」を身体で悟られた。その中で湧き上がったのは、決して難解な哲学ではなく、「感謝」「反省」「敬意」という素朴でありながら普遍の真理であった。
宮司は、この記録に触れて強く心を動かされた。人は極限に追い込まれると、華やかな思想ではなく、幼い頃に家庭で教わるごく当たり前の心に立ち返る。その当たり前こそが、命を支える根源なのだと教えられる。塩沼住職が命を削って歩まれた修行は、「人間として本当に大切なものは何か」を浮き彫りにしている。
この気づきは、私たちの日常にも生かされる。朝に目覚めること、食事を口にできること、家族や友と語らえること。その一つ一つが大自然と人々の恩によって成り立っている。だからこそ、自分を大切にするように他人を尊重し、互いに敬意を払うことが、社会を和やかにし、人生を光あるものへ導く。
宮司は信じている。人と人、心と心が通い合うとき、私たちは「このために生まれてきたのだ」と深い幸福を味わうことができる。感謝・反省・敬意、この三つを胸に刻み、和をもって歩むことこそ、道徳心を養い、人生を豊かにする道なのである。
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