四方の海を見つめて ― 明治天皇の御製に寄せて

明治天皇の御製「よもの海 みなはらからと思ふ世に など波風の たちさわぐらむ」は、まるで現代をも見通しておられたかのような深い叡智と慈しみの詩である。人々が皆、兄弟姉妹のように互いを思いやり、助け合う世の中であるはずなのに、なぜ争いや混乱が絶えないのか。その問いかけは、今なお胸に突き刺さる。
神職として、日々多くの参拝者と向き合う中で感じるのは、国や宗教の違いを超え、人は本来、平和と調和を願う存在だということ。神道の教えには、「和を以て貴しと為す」の精神が根幹にある。自然の中に神を見いだし、互いに敬い合う心が日本の伝統には脈々と流れている。
世界を「四方の海」として見つめたとき、そこに広がるのは多様な文化と価値観、風習の違いである。しかし、違いこそが人類の宝であり、決して憎しみの理由にはならない。宗教も、言語も、肌の色も、突き詰めれば人間が生きていくために必要な表現の違いに過ぎない。それらを理解し合い、尊重し合えば、必ずや共に歩める道が見えてくる。
宮司の務めとして、祈りを捧げるたびに思う。人々が互いに「家族」のような思いで手を取り合い、争いではなく語らいを選び、ハグを交わせる世界が訪れる日を心から願ってやまない。武器を持たず、ミサイルやドローンに頼らずとも、言葉と心で解決できる人類でありたい。
争いのない世界は、夢物語ではない。それは一人ひとりの心の持ちようで、確かに近づける現実である。神々が見守るこの大地の上で、人と人が誠実に向き合い、和をもって共に歩む。そんな「家族のような地球」の実現こそ、明治天皇の御製が問いかける理想の姿であり、人類の進むべき道なのだ。
神職として、これからもその道を信じ、祈り、歩んでゆきたい。四方の海を越えて、すべての命が調和の中に生きる世界のために。