六然の心を生きる力に

宮司は、かつて安岡師父より「六然」という教えを常に諭された。この六つの心構えは、簡潔でありながら、人が生きるうえで拠り所となる深い智慧を含んでいる。言葉として口にすること、紙に記すことは容易である。しかし、実際に日常の営みの中で貫き通すことは、まことに難しい。だからこそ、六然は人生を歩むための灯火となるのだ。
自らに対しては「自処超然」。物欲や名誉に囚われず、澄んだ空のように自由であるべきである。他者に対しては「処人藹然」。春の陽気のように人を包み、安らぎを与える心で接することが大切だ。事が起こったときには「有事斬然」。ぐずぐずせずに勇断をもって対処する。平時には「無事澄然」。濁りのない水のごとく、心を澄ませておく。成功のときには「得意澹然」。淡々と驕らず、誇らずにいる。そして、逆境や失意のときには「失意泰然」。嵐に揺るがぬ大樹のように、泰然自若として構えることが求められる。
この六然の心は、いまの時代にこそ必要である。世の中は混迷を深め、怒りや嘆き、逆恨みを生みやすい。だが、宮司は師父の声を思い出し、自らを戒める。世を憂うよりも、六然の心で己を整え、まず隣人のために尽くすことが肝要である。日本という国もまた、この六然の心をもってこそ、幾多の困難を越えてきた。先人たちは苦境にあっても嘆かず、力強く未来を切り拓いてきた。その精神は、愛国心の根幹とも言える。
人は誰しも、思い通りにならぬ時を経験する。苦しみに直面し、足元が崩れ落ちるような時もある。だが、六然の心を胸に抱けば、たとえ嵐のただ中でも、倒れることなく立ち続けることができる。六然は、日々の小さな心がけから養われる。今日一日を、淡々と、泰然と過ごす。その積み重ねが、未来を生き抜く大いなる力となるのだ。
六然の六つの心
自処超然
己を律するときは、何ものにも囚われずに生きよ。
処人藹然
人に接するときは、春の陽気のように和やかであれ。
有事斬然
事が起これば、迷わず迅速に対処せよ。
無事澄然
平穏なときには、水のように澄んだ心であれ。
得意澹然
成功のときは、あっさりと、驕らずに過ごせ。
失意泰然
逆境にあっても、揺るがぬ大樹のごとくあれ。