年の瀬が近づくと、神社には「神棚を祀りたいが、どうすればよいのか分からない」という声が多く寄せられる。家を新しくした人、親の家を継いだ人、あるいは年を重ねて、改めて神様とともに暮らしたいと思い立った人。その動機は様々だが、胸の内にあるものは同じである。家の中に、手を合わせる場所を持ちたいという願いだ。
神棚は難しいものではない。細かな作法は地域や神社によって違いがあるが、大切な筋道は一つしかない。神様を、家の中で最も清らかで、最も尊い場所にお迎えすることである。宮司は長年、吉野山の吉水神社で、そしていまは安倍神像神社で神明に仕えてきた。その経験から、家庭で神棚を祀るときに押さえておくべき要点を、順を追って述べてゆく。
神棚とは何か。家の中の小さなお社
神棚は、家庭に設ける小さなお社である。そこには伊勢の神宮のお札である神宮大麻と、住まう土地を守る氏神様のお札、そして自らが篤く崇める神社のお札をお祀りする。神社に参拝するのは年に幾度かであっても、神棚があれば、毎朝神様に向き合うことができる。
日本人は古来、山にも川にも、竈にも井戸にも神を感じて生きてきた。神棚は、その暮らしの中の信仰を形にしたものだ。特別な人のためのものではない。朝に感謝し、夕に一日の無事を報告する。その繰り返しが、家を整え、心を整えてゆく。
置く場所。明るく清らかで、家族が集う部屋に
神棚を置く場所として最もよいのは、家族が日々集まる居間である。明るく、風通しがよく、清潔に保たれている部屋がふさわしい。神様は人の営みを見守る存在であるから、誰も立ち入らない物置のような部屋は避けたい。
反対に、避けるべき場所もある。トイレの近くや、その壁の裏側。人が頻繁に出入りする扉の真上。台所の火や湯気が直接かかる場所。これらは清浄を保ちにくく、落ち着いて手を合わせることもできない。
二階建ての家で、神棚の真上を人が歩く場合には、神棚の上の天井に「雲」あるいは「天」と書いた紙を貼る習わしがある。神棚の上には空しかない、という意味を込めたものだ。マンションで上の階に住まいがある場合も、同じようにすればよい。
向き。神棚の正面を南か東へ
神棚の向きは、正面が南、または東を向くように祀るのが基本である。南は太陽が最も高く昇る方角、東は日の昇る方角だ。天照大御神をお祀りする神棚が、明るい陽の方を向くのは自然な道理である。
とはいえ、住まいの間取りによっては、南向きにも東向きにもできないことがある。そのときは無理をすることはない。宮司が何より大切だと考えるのは、方角よりも、家族が自然に手を合わせられる場所であることだ。北向きだけは避け、そのうえで最も清らかな場所を選べばよい。
高さ。大人の目線より上に
神棚は、立った大人の目線よりも高い位置に設ける。神様を見上げる形で拝むためである。天井に近いほど尊いというわけではないが、お供えを替えたり、掃除をしたりすることを考えれば、踏み台を使って手が届く高さが実際的だ。
棚板を取り付ける壁は、しっかりとした下地のある場所を選ぶ。お札やお供えを載せた神棚が傾いたり落ちたりしては、申し訳が立たない。賃貸住宅などで壁に穴を開けられない場合は、背の高い家具の上に白い紙を敷き、その上に祀る形でも差し支えない。
お札の順番。三社造と一社造の違い
神棚の宮形には、扉が三つ並ぶ三社造と、扉が一つの一社造がある。どちらを選んでも、神様への真心に違いはない。
三社造の場合、中央に最も尊い神宮大麻をお納めする。向かって右に氏神様のお札、向かって左に崇敬する神社のお札をお祀りする。一社造の場合は、お札を重ねてお納めする。一番手前に神宮大麻、その後ろに氏神様、さらにその後ろに崇敬する神社のお札という順になる。
お札は、一年ごとに新しいものをお受けするのが習わしだ。古いお札は、年末から年始にかけて、お受けした神社へお返しする。神様の力をいただき、一年の感謝とともにお返しし、また新たにお迎えする。この巡りの中に、常に新しくあろうとする常若の心が息づいている。
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神具とお供え。米・塩・水を毎日
神棚には、榊立てに挿した一対の榊、神鏡、しめ縄を整える。しめ縄は神域と俗世を分ける結界であり、神棚の前に張ることで、そこが神様の御座所であることを示す。
お供えの基本は、米、塩、水の三つである。中央に米を、その左右に塩と水を供える。毎朝取り替えるのが理想だが、難しければ水だけでも新しくしたい。毎月一日と十五日には、お神酒を供え、榊を新しいものに替える家も多い。
並べ方には地域や神社による違いがある。迷ったときは、氏神様の神社で尋ねるとよい。神職は喜んで教えてくれるはずだ。形にとらわれすぎて手が止まるより、真心を込めて続けることのほうが、はるかに尊い。
毎日の拝み方。二拝二拍手一拝
朝、顔を洗い身を整えたら、神棚の前に立つ。お供えを新しくし、深く二度お辞儀をする。胸の高さで両手を合わせ、二度柏手を打つ。手を合わせたまま心を込めて祈り、最後にもう一度深くお辞儀をする。これが二拝二拍手一拝である。
祈る言葉は、願い事から始める必要はない。まず、今日も目覚めることができたことへの感謝を伝える。家族の無事を祈り、この国の平安を祈る。宮司は、この朝の数十秒こそが、一日の心の芯をつくると考えている。
神棚を祀り始めるのに良い日
神棚を新たに祀るのに、特別な決まりはない。ただ、大安や一日、十五日など、気持ちを改めやすい日を選ぶ人が多い。年末に新しいお札をお受けし、正月を新しい神棚で迎えるのも、実に清々しいものだ。
一方で、十二月二十九日は「二重苦」に通じ、三十一日は「一夜飾り」として慌ただしさを嫌うことから、避けるのが一般的である。余裕をもって、十二月の半ばまでに整えておきたい。
神棚は、家の心を映す
神棚が整っている家は、不思議と家全体が整っている。それは神棚が特別な力を持つからというより、毎朝神様に向き合う習慣が、住む人の心を正すからだろう。埃を払い、水を替え、手を合わせる。その小さな所作の積み重ねが、家族の背骨になってゆく。
神棚を祀りたいと思ったその心が、すでに神様への第一歩である。完璧な作法を身につけてから始める必要はない。今日できることから始め、分からないことは神社で尋ねればよい。宮司は、一つでも多くの家に、朝の祈りの灯がともることを願っている。
安倍神像神社へのご参拝・お問い合わせ
長野県阿南町の安倍神像神社では、参拝の方をお迎えしている。お札や神棚のことで分からないことがあれば、気軽に尋ねてほしい。
安倍神像神社 公式サイトへ