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一張一弛、心の弓を知る。休むこともまた修行である

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朝、参拝者もまだ少ない時間帯、宮司は本殿の前でしばし手を止め、静かに息を整える。忙しく立ち働いた一週間の終わりに訪れるこの静寂のなかで、宮司は思う。休むということもまた、一つの修行ではないだろうか。

現代社会には、休むことにどこか後ろめたさを抱かせる空気がある。忙しくしていることが美徳とされ、立ち止まることは怠惰であるかのように語られる。真面目な人ほどその空気を背負い込み、疲れていても、休むことに罪悪感を覚えてしまう。宮司は、そうした人にこそ、そっと伝えたいことがある。

古く中国の礼記に、「一張一弛」という言葉がある。

弓は、常に張りつめたままでは用をなさぬ。時に張り、時に弛める。そこにこそ、長く用いるための道理がある。

弓だけの話ではない。文王・武王の政もまた、この張弛の道理をもって民を治めたと伝えられている。厳しさだけでは民は疲弊し、緩みだけでは国は乱れる。張ることと弛めることの両方を心得てこそ、初めて長く治まるのである。宮司は、この古諺を、現代を懸命に生きる一人ひとりの心に、そっと手渡したいと思う。

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宮本武蔵は『五輪書』のなかで、剣の道において最も大切なものの一つとして、心の平静を説いた。ぴりぴりと張りつめた心では、いざという場面で正しく動くことができない。むしろ、常に静かに整った心を保つことこそが、真の強さを支えるのだと武蔵は説いたのである。剣を振るう動きだけが修行ではない。心を静め、力を蓄える時間もまた、修行の一部として位置づけられていたのである。

もちろん、怠けることと休むことは、同じではない。なすべきことから目を背けてしまえば、それは休息とは呼べないだろう。だが、心身を整え、明日への力を養うために立ち止まることは、決して志を捨てることではない。この違いさえ心に留めておけば、休むことを恐れる必要はないのだ。

田畑もまた、休ませることによって豊かな実りを取り戻す。日本の農業には、古くから土地を休ませる知恵があった。同じ土地に同じ作物を作り続ければ、やがて地力は尽きる。適切に休ませることによってこそ、次の実りが約束されるのである。人の心と体もまた、これと同じ理を持っているのではないだろうか。休ませることを惜しめば、目先の実りは得られても、やがて実りそのものを細らせてしまう。

宮司は思う。休むことを恐れる人の多くは、立ち止まった瞬間に、自分の価値が失われてしまうのではないかという不安を抱えているのかもしれない。その気持ちは、宮司にもよくわかる。けれども、休むことは後退ではない。むしろ、次に踏み出す一歩をより確かなものにするための、大切な準備なのである。

どうか、休むことに後ろめたさを感じないでください。

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弓を引く者は、弦を引き絞ったままでは、いずれ弓を傷めてしまうことを知っている。矢を放った後には、必ず弦を緩める時間が要る。人の心もまた同じである。

張りつめたままでは、いずれ折れてしまう。

緩め、整え、また張る。その繰り返しのなかにこそ、長く力を発揮し続ける道がある。一張一弛とは、まさにこの繰り返しを尊ぶ言葉である。張りっぱなしの弓がいつか強さを失うように、人の心もまた、休むことなく張り続ければ、知らぬうちに力をすり減らしてしまう。

家庭においても、この理は生きている。休むことなく働き続ける親の姿は、たしかに尊い。だが、その姿だけを子供に見せ続けることが、必ずしも良い手本になるとは限らない。適切に休み、心身を整え直す親の姿もまた、子供にとって大切な学びとなる。人は休んでよいのだ、しかしただ怠けるのではなく、次への備えとして休むのだということを、態度で示すことができるのである。親が肩の力を抜く姿を見せることは、子供に、自分を大切にしてよいのだと教えることでもある。

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もちろん、なすべき務めを放り出してよいということではない。ここでいう休息とは、責任から逃れることではなく、責任を果たし続けるための知恵である。なすべきことに誠実に向き合ったなら、静かな休息を受け取ってよい。それは、頑張った自分への、ささやかな労いでもある。

宮司もまた、境内の静けさのなかで、自らの心身を整えるひとときを大切にしている。それは、明日また神前に仕え、人々と向き合うための、大切な備えである。弓を弛めるひとときがあってこそ、次に矢を放つ力が満ちる。

休むことを恐れず、しかし怠けることもなく、心身を整えて次の一歩に備える。それこそが、長く志を保ち続けるための、静かな知恵ではないだろうか。

疲れたときは、どうぞ心の弓を弛めてください。皆さまが穏やかな心で、また次の一歩を踏み出せますように。宮司も、そっとお祈りしております。

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この記事を書いた人

佐藤素心(一彦)。宮司。昭和16年山口県生まれ。元大阪府警勤務。1979年(昭和54年)の三菱銀行人質事件では機動隊員として活躍。事件解決に尽力した。1990年(平成2年)の西成の暴動では自身が土下座をして騒ぎを治めた。その他、数多くの事件に関わり活躍した人物。警察を退職後は宮司となり奈良県吉野町の吉水神社(世界遺産)に奉仕。吉野町の発展に寄与。故・安倍晋三元総理をはじめ、多くの政治家との交流を持つ。現在は長野県下伊那郡阿南町に安倍晋三元総理をお祀りした安倍神像神社を建立し、宮司を務めている。

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